069247 ランダム
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息抜きの間の人生

息抜きの間の人生

第1章 日常

 第 一章

「本日早朝、遺体が発見されました。中年の男性の遺体で身元は判明しておらず、警察は身元の判別を急ぐと共に男性が何らかの事件に関わっているとみて捜査を進めていく方針です」
アナウンサーが淡々と記事を読み上げる。
「怖い事件ですね」
「そうですね」
コメンテーターが顔をしかめている。
「さて、次のニュースです」
「おーい、悠。起きろ」
テーブルの上に味噌汁を置きながら叫ぶ。
「まだ、寝てるのか?」
「ああ、昨日帰りが遅かったんだな。お前も一緒だっただろう、将」
「あ~、そうだけど」
将は新聞を見ながらコーヒーをすする。彬は椅子に着き箸に手を伸ばす。
「今回の仕事は依頼料を施設に寄付だってさ」
「・・・プロフェッサーから?」
コーヒーの手が止まる。
「そうだよ。悠から聞かなかったのか?」
「・・・言いにくいのだが、使ったんだよ。少々」
味噌汁のお椀が止まる。
「・・・はぁ?幾らだよ。三千万は寄付だぞ」
「依頼料より多いじゃないか!」

下から騒々しい声が階段を登る音と共にダンダン近づいてくる。
「・・・なんだろう」
腕を伸ばし目覚まし時計を取る。
「・・・八時か、起きなきゃ」
ゆっくりと上半身を起こしたと同時に ダダダダダッ 扉を叩く音がして
「おい、悠。起きろ」
「お前、将に幾ら渡したんだよ。何考えてるんだ」
怒鳴る声が聞こえる。目覚ましを戻しながら考える。
「・・・何怒鳴ってんの?二人とも?」
「出て来い、悠」
扉を叩く音とともに彬が怒鳴る。
「怒鳴るなよ、鍵は開いてるから入れよ。何なんだよ、分かんないんだけど」
ベットから出ながらボサボサの髪をなでる。
「入るぞ」
「ああ、いいよ」
椅子にかけてあるカーデガンを羽織ながら返事をする。
「何?」
「何じゃないよ!!」
彬が声を荒げる。
「どうしたの?」
まだ、悠は眠たそうにしている
「お前な~、プロフェッサーになんて言われたんだ!」
「・・・いや・・・、まあ、座りなよ」
欠伸をしながら、ベットに座るように促す。段々頭がはっきりしてきた頭で二人が怒鳴ってきた理由を考える。
「依頼料だよ、悠」
彬がため息を付く。
「ああっ」
思い出した。寄付の話だ。
「ああっ じゃない!三千万円なんて俺は聞いてない」
「・・・言ってないもん。いいよ、もおうその話は、寄付はして来たからさぁ。俺が持って行ったと言っといたからさぁ」
椅子に腰掛け、足を組む。二人は少々驚いている。
「もう持って行った?」
将が立ち上がる。
「うん」
「じゃあ、俺が使った金はどこから出てるんだよ」
「知らなくていいよ。朝ごはん食べるから彬、将。下に行こう」
「・・・知らなくていいって。悠、お前」
「DETAが言ったんだよ」
その言葉に二人は口を閉ざして部屋から出る。
階段を下りていく音を聞きながら悠は着替えを始めた。
白いブラウスに縦じまのスカート、臙脂色のリボン、踝までの白いソックスを履く。
高校の制服である。
ハンガーにかけてある紺のブレザーに腕を通し、机の鞄を持ち部屋を出る。

居間に下りると朝食が食卓の上に並べてある。
野菜サラダと目玉焼き。
「パン?ご飯?」
悠の姿を見て彬が問う。
「ん~、パン。バターたっぷり」
鞄を置き、椅子に座る。
同時に、コーヒーが目の前に置かれる。
「ありがとう」
「いいえ、今日は学校に行くんだな。制服なんか着て・・・。しかし、遅刻だろうよ、こんな時間じゃあ。どうするんだよ」
自分のコーヒーを注ぎながら、将が聞く。
「うん、分かってるよ。でも行かないと、もう3年だし、出席日数が少しヤバイし、大学に行きたいからね」
くるくるとコーヒーを混ぜる。
「・・・大学に何しに行くんだよ」
「はい、どうぞ」
コーヒーの横に味噌汁が置かれる。
「ねぇ、彬。パンに味噌汁?」
「栄養のバランス的には良いかと」
真面目に答える。
「・・・そう」
お椀に手を伸ばし、ゆっくりとすする。
「大学ね、生物学がいいね。もしくは医学かな?そしたら『PLANAET』にも役に立つしさ」
「そんなもんか?」
新聞に目を戻し将が答える。
「悠は仕事熱心なんだよ」
自分のご飯をよそいながら彬が笑う。
「でもよう、金はどこから出るんだよ。俺は貯めてはないからな。お前の学費なんて」
「それと、成績ですね。中間テストはあまり出来が良くなかったようですし、悠、先生から連絡がありました。追試には出てこれるのかと」
「・・・そんな事は・・・」
「昨日の話です」
新聞を折りながら
「いくら仕事熱心でも自分の人生忘れてたら先は暗いなぁ」
ポイッ それを投げて、サラダに手を伸ばす。
「昨日は仕事してたよ。テスト受けてから学校に行ってないし、追試の話なんか聞いちゃぁないよ。どうしろって言うのさ、仕事も学校も両方は行けないでしょう」
開き直り気味である。
「悠、いいから。早く食べて、将、送ってあげなさい」
「えっ、彬。パンは?」
「もうすぐ焼けます。今からがんばれば、そんなに遅刻しなくていいですよ」
チンッ トースーターからパンが出る。バターを塗る彬の手を見ながら目玉焼きを口に運ぶ。
「今日は送ってやる。明日はないぞ」
「分かった、お願い」
彬が微笑む。
「ちゃんと送ってくださいね。サボらないように」
「・・・あんまり、信用がないのね~」
「日常がな」
「はい」
おとなしくもくもくと朝食のメニューを口に運ぶ。

玄関に出て、靴を履く。長い髪は二つに分けて三つ編みになり、肩から背中に向かって垂れている。
「おっ、いるじゃないか」
「彬には逆らえないですから」
「まっそうだ」
ポイッ とヘルメットが投げられる。
少々高くなり始めた日差しを浴びながら二人はバイクにまたがる。
「行ってらっしゃい」
神主の格好をした彬が見送った。
今日からまた普通の生活である。

 高森 悠(たかもり ゆう) 十八歳 女
『PLANET』 チーム『SATURN』所属
コードネーム 『CAT』
普段は高校生なのだが仕事が入れば『CAT』として行動する。家出少女か、身寄りがないのか、『SATURN』に拾われ『PLANET』に入る。

吉田 将(よしだ しょう) 自称二十三歳 男
『PLANET』所属
コードネーム 『魔術師(マジシャン)』
プロフェッサーと呼ばれる『PLANET』の最高責任者の直属の部下であり、地位的には『SATURN』より一つ上になる。『DETA』と呼ばれる仲介者なしに直接仕事を貰う立場にある。
なぜ、こいつがプロフェッサーのそばにいないでここで生活しているかは謎である。

 神田 彬(かんだ あきら) 二十五歳 男
『PLANET』 チーム『SATURN』所属 
コードネーム  『SATURN』
その名の通り、チーム『SATURN』のリーダであるとは言っても『CAT』との2人組である。
『魔術師(マジシャン)』より地位的には一つ下になり、『DETA』と呼ばれる仲介者から仕事を貰う。
『PLANET』結成時から所属している古株でもある。そして、生活の場、神田神社の神主でもある。彼は魔術師が一緒に暮らしていることに少々疑問を持っているようだ。


 一時限目が終わったぐらいに校門の前に着いた。
思ったより早く着いて少々驚いている。
「じゃあ、ちゃんと勉強しろよ」
将のバイクが走り去っていく。鞄を持ち直し教室へと向かう。
からからと扉を開けると声を掛けて来る者がある。
「おはよう、高森ちゃん、体大丈夫?」
友人の田中 睦(たなか むつみ)が手を振っている。
「おはよう、むっちゃん。大丈夫だよ」
手を振り返しながら席へと向かう。
「ねー、高森ちゃん追試があるらしいよ。大丈夫?英語と数学」
「・・・無理かも・・・」
教科を聞いて落ち込む。
「そうだよね~、休みあけにいきなり追試はきついよね」
「ね~」
二人はくすくすと笑う。
「・・・きついよね~、じゃなくてさぁ。高森、ちゃんとやってれば追試はないぞ」
突然、背後から声が掛かる。
一瞬、身構えそうになった手を椅子の背もたれに置き振り返る。
「よう、驚いたか?」
「うん」
(思わず殴りそうになったよ)
少々、日焼けした肌の少年が笑う。クラスメイトの植田 祐介(うえだ ゆうすけ)である。
「風邪くらいで一週間も休むなよ」
「私は君のように体が丈夫ではないのだよ。植田君」
「あっそ、気を付けて、話は変わるけど、生物と現社と国語の点数で賭けしてたけどうする?」
そう言われ少々考える。そういえば、そんな話をしていたような気がする。
「じゃあ、返って来たら見せるよ」
「俺、今回は結構いい線行ってるよ。今度は勝つぞ。俺が勝ったら、今週の土曜か日曜に付き合ってもらうからな!」
にやっと笑う。
「・・・私が勝てば、フェと映画おごってもらうからな」
鞄を開けながら言う。
「またやってんだ、高森ちゃん」
「うん、植田がチャレンジャーなんだよ、私が得意な教科で賭けるんだもん。私の成績は知らないわけではないと思うんだけどね~」
「知ってるよ。クラスで九、十位ぐらいだろう、でも、お前はむらが多いよな。今回、英数は追試だろう。だから賭けるんだよ。二回ほど勝ってるしな」
「いつからやってんの?」
「二年の二学期から、今の所、二対二です」
「そっ、まぁ、結果分かったら言ってくれよな」
ひらひらと手を振りながら去っていく。

~ 放課後 ~
 ブーッブーッ マナーモードの携帯が鞄の中で存在をアピールしている。
「何だ?ああ。何?」
『何?てよう、悠、終わったんだろ。迎えに行ってやろうか?』
将がTELの向こうで笑っている。
「まだいい、追試だから」
『そうか、じゃあ、終わったら連絡しろ』
「うん」
プッ 切って半分に折る。
「お兄さん?」
「うん、迎えに来ようかって」
鞄に携帯を入れながら笑う。
「心配症だよね」
「そうかな?私、兄弟いないから分かんないけど、一週間風邪で寝込んでいたら心配するよ」
むっちゃんは微笑む。
「・・・そうか」
(そうか?笑ってたぞ。何があったんだ?)
何気ない、何の気のない将のTELに少々考える。
「追試、今から?どこでやるの?」
「進路指導室で」
「がんばってね」
「ありがとう」
それぞれ鞄を持つ。クラブへと行くむっちゃんに手を振って別れる。
「高森、テスト返って来ただろう。何点だった?」
植田だ、声を掛けるタイミングを見ていたのだろうか?
「何点だった?」
「合計?個別?」
「別で」
テクテクと歩いてくる。
「生物98、現社87、国語75です」
ぴたっと歩みが止まる。
「・・・負けた」
「・・・全部?」
少々、悲しそうである。
「全部、俺の負け。生物80、国語73、現社77だった。結構自信あったのに」
「微妙ですな~。前回私はそれくらいだったよね」
少し、近づいている。
「そうだろう。国語なんて2点差だよ」
肩をがっくり落とす。
「どれか一つ勝てばよかったんだよね。私に」
「・・・そう」
「まぁ、今度の休みにパフェと映画ね。おごりでお願いします。見たい映画決めとくよ」
ポンッ 肩を叩く。
「分かった、土曜か日曜か俺が決めていいか?」
「いいよ。別にどっちでも」
それから・・・と植田が口を濁す。
「何?」
「・・・いや明日言う。追試だろう?ああ、俺は追試ないのに・・・、賭けたのだけが・・・」
「しょうがないじゃん。じゃあね」
「ああ」
軽く手を上げて別れる。
(なんだったんだ?)
頼みにくい事だったのだろうか?
(なら言うな)
心の中で毒付きながら追試へと向かう。

~追試終了~
(やっぱ、本番より簡単なんだよね)
解答用紙を先生に渡しながら思う。
「高森、お前大学に行く気なら追試は最後にしろよ。お兄さんとも良く相談してな」
帰りがけに先生が声を掛ける。
「はい」
とりあえず返事を返し、進路指導室を出る。
学校には将と彬は兄なのである。一滴の血も繋がってはないのだが・・・。

~その夜~
「悠、追試はどうでした?」
結局、追試後は将の携帯に繋がらず、自力で家まで帰ったのだ。
「うん、今回は大丈夫だよ。期末は引っかからないようにするよ。あとさぁ、先生が大学はどこにするかって?」
淹れてもらったコーヒーを片手に彬を見る。
「・・・本当に行きますか?[PLANET]で仕事も研究も出来ますよ」
苦笑している。
「・・・まぁ、そうだけど。とりあえず一般的な方でお願いします」
ズズズッと音を立てて、コーヒーをすする。
「悠、友人を作らないように」
「・・・分かってるよ」
彬が椅子を引いて座る。
「なら良いのですが。・・・コーヒーと一緒に甘い物が欲しいですか?冷蔵庫にありますよ」
「いい、太るから・・・。次の仕事は入った?」
「まだ入ってないですよ。それより、大学に行くのなら勉強してください」
「はーい」
コーヒーを持ち、部屋へと退散する。
「まったく、あの小娘は何を考えてるんでしょうね。一般的なんて言葉はもう通用しないんですけど・・・分かって言ってるんでしょうかね。自分の存在価値を・・・」
静かに呟き、コーヒーを口に運ぶ。


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